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史料にみる“やんばる”
―名護市史『名護・やんばる史資料叢書(仮)』プレ構想について―
名護市教育委員会文化課
市史編さん係 大嶺真人
史料とは
過去に存在した事象を把握し筋道を立てる、すなわち歴史を考察する上での手がかりになるものを「史料」と呼ぶ。紙に書かれた文献史料がすぐに頭に浮かぶが、口頭伝承、金石文、絵画、録音、映像(写真・動画)など様々な種類がある。遺物・遺跡なども広い意味の史料である。
名護市史『名護・やんばる史資料叢書(仮)』構想について
名護市史編さん係では、資料編『名護・やんばる史資料叢書(仮)』と本編・2『通史』編の刊行にむけた取組をはじめている。『史資料叢書』を『通史』編の基礎資料と位置づけ、『通史』編の編集・執筆に供することができるよう、以下の目的を確認した。
・この『名護・やんばる史資料叢書(仮)』は、“名護・やんばる”の地域史研究の基礎情報である。
・市民利用に広く開くことを基本方針に、内容・編集の工夫を探求する(適切・明解な解題・解説、ルビを最大限つけるなど)。
・戦後(現代)の歴史史料を含める。
・文書史料に加えて、地図、歴史的統計資料、各種目録も対象とすることで、総合的な史資料集を想定する。
・名護市史『通史』編の直接史資料に活用する。
収録史料の選定と編集作業
「名護・やんばる史料叢書(仮)」に収録予定の史料は、大別すると、すでに研究・整理され刊行された「既刊史料群」と地方文書(家文書など)のように翻刻・研究がまだ進んでいない「地方史料群」がある。
まずは「先史・古琉球」「近世」「近代」「現代」の時間軸で史料群を分類し、これらの中から名護・やんばるに関するものを選定し(全部・一部)、翻刻・テキスト化、史料解題・解説の執筆、目録作成など、資料化の作業工程を経て収録することとなる。
史料集分冊計画(案)
『名護・やんばる史料史料叢書(仮)』の刊行は、時代や史料テーマごとに整理した“分冊=叢書”案を検討している。分冊ごとの作業工程や刊行順については、後の『通史』編集を見据え検討する必要があるだろう。
以下に、大枠ではあるが、時代別・分野別に整理した分冊計画を挙げる。
名護市史『名護・やんばる史資料叢書(仮)』刊行計画案と各巻概要
『名護・やんばる史資料叢書』総目録
『名護やんばる史資料叢書』全巻の総目録として編集する。構成については、各巻概要や総目次、総索引などが検討される。この史資料叢書刊行計画の最後の刊行を目指す。
考古・古琉球
『先史遺跡情報』
名護市ほかやんばる町村の「遺跡分布確認調査報告書」や「発掘調査報告書」が一次資料となる。それらをもとに名護やんばるにおける同時代の遺跡・史跡を、横断的に分類整理するなどの方針が検討される。そのほか、各市町村の遺跡・史跡数や調査報告書抄録などの基本情報についてもまとめる。
『古琉球史料』
史資料を時代的に区分すると、この『古琉球史料』に該当するのは、「おもろそうし」のほかは、「明実録」「李朝実録」中の冊封関係史料と「琉球渡海日日記」「喜安日記」の琉球入りの史料となる。大別すると、「おもろ」編・「冊封関係」編・「薩摩侵入」編となり、内容量によっては分冊も検討される。
『正史Ⅰ』『正史Ⅱ』
『球陽』『中山世譜』『中山世鑑』『琉球国由来記』『琉球国旧記』の名護やんばる関係記述をもとに編集される。史料解題や現代語訳、語注など、読者の利便性に配慮した編集・史料整理が方針となる。『球陽』編・『中山世譜/中山世鑑』編・『琉球国由来記/琉球国旧記』編の分冊を予定している。
『近世王府史料』
『琉球王国評定所文書』『琉球国高究帳』『御当国御高並諸上納里積記』『琉球一件帳』『間切村名尽』『事々抜書』『琉球資料』『琉球藩雑記』が収録候補となる。
各史料の解題や語注を充実させることが基本方針となる。『評定所文書』や『琉球資料』は分量や未翻刻の史料が多く、編集・整理作業方針は要検討。
『琉球産業制度資料』
『近世地方経済資料』第9巻・第10巻に収録されている「琉球産業制度資料」の名護やんばる部分をもとに編集される。大きく分けて「土地制度」「山林制度」「租税関係」「内法関係」に史料を類別して整理編集することとし、史料の読み下し文・語注・史料解題と分類テーマ(土地制度など)の概要を収録する。
『林政八書』『山林真秘』『農務帳』『羽地大川修補日記』など、蔡温の政策を記した史料を中心に構成するが、県史などですでに刊行された史料なので、掲載方法や編集方針などを検討する必要がある。
『程順則関連資料集』
『程氏家譜』や『雪堂燕遊草』などの漢詩集が収録候補の史資料として挙げられる。以前に刊行した「程順則関連資料集」第一集をもとに編集方針を検討していく。
『風水関係資料』
名護市史で『羽地真喜屋稲嶺風水日記』を刊行したが、それに収録されていない風水関係資料が収録候補となる。名護市内では久志棚原家資料の墓風水関係資料や伊差川座喜味家の日撰関係資料がある。やんばる各町村にどれだけ残っているか資料調査を先行させる。
『名護・やんばるの検地と地割』
名護市史で複写した「羽地間切針竿帳」のほか、「伊平屋嶋杣山竿入帳」「土地整理に関する書類綴」など、検地や地割に関する史料がやんばる地域には多く遺されている。また、沖地協叢書のハル石情報も貴重な情報である。これらの史料は、上記刊行案に組み込むには史料分量が多いので、別立てで刊行してはどうかとの意見が提案された。そこで、「検地と地割」をテーマにした分冊を検討してみたい。
『間切村内法』
「南島村内法」ほか既刊資料に掲載されている間切村内法に関する史料を収録する(「沖縄庶民生活史」「名護六百年史」「羽地村誌」など)。史料編集については要検討。
近・現代
『名護・やんばるのすがた』
『南島風土記』や『海南小記』など、外からみた琉球・沖縄に関する史資料で構成する。下記の分冊案『沖縄県内巡回記』との差別化については要検討。
「上杉県令巡回日誌」と笹森儀助『南島探験』『笹森儀助雑録』の名護やんばる関係記述をもとに編集する。史料概要と史料本文を中心に構成する。上記『名護やんばるのすがた』との差別化または統合については今後の検討課題。
『沖縄県史』第12巻・第13巻に収録されている「沖縄関係各省公文書」の名護やんばる関係部分ををもとに編集。史料整理や掲載方法、構成についてはこれからの検討課題。
『名護・やんばる各間切取調書と問答書』国頭地方・大宜味地方・伊江島・恩納間切・名護間切・久志間切・金武間切の旧慣問答書や取調書をもとに編集する。各史料の史料本文と史料解題を中心に構成する。
『名護・やんばる歴史統計』
『沖縄県統計書』と『明治17年名護間切物産統計』の収録が想定されるが、現在の名護市各種統計情報の追加も必要だろう。名護市史既刊『近代歴史統計資料』をベースに編集方針を検討。上記資料のほか、統計情報を含む史資料のさらなる発掘が課題となる。
『名護・やんばる研究の先人たち』
島袋源一郎、田村浩、仲吉朝助、比嘉宇太郎といった名護・やんばる地域研究の先人たちが遺した史資料をもとに編集する。掲載方法については、目録情報化や部分収録が主な方法となるか。
名護市で所蔵している宮城真治資料と小川徹資料、やんばる関係資料として貴重である仲松弥秀ノートについても収録を予定しているが、史料分量に応じて分冊することも検討される。
名護市史『戦前新聞集成1・2』をはじめ、新聞記事目録はこれまでに多数作成してきた。この『名護やんばる新聞記事目録』では、それ以降に名護市史で収集した新聞記事の目録化とやんばる関係記事目録を掲載する。
これまでに名護市史で作成した各種資料目録を集成することが一つのテーマ。集成にあたっての作業課題、資料内容についてはこれからの検討。
『名護・やんばる歴史年表』名護市とやんばる各町村のできごとを時代順に一覧できるようなかたちで編集することを目標とする。時代の範囲や年表記事の選定など作業に際しての検討課題は多い。
『名護・やんばる日記集成』
名護市史で収集・記録した日記資料について収録する。山入端ハナ日記をはじめ、仲里松吉日記(戦後直の久志村長)、宮里東助日記(未調査・TV番組で紹介)、宮城真治日記(防空日記)、セア・ビビンズ(水兵日記)などが候補にあげられる。
『やんばるの先人たち』という刊行テーマを設定し、やんばるを歩いた人たち・やんばるを研究した人たち・やんばるの文人たち・やんばるの産業人たち、などの分野における人物誌をまとめる。収録する人物は各分野の著名人のほか、戦前の人名禄・興信録を中心に抽出する。歴代市町村長や歴代区長などを一覧で掲載するのも興味をひくのでは。また、『名護市の人物誌1・2』の再整理や「砂糖消費税請願」の戸主名簿を名護・やんばる町村分掲載することも検討される。
『名護・やんばる地図集成』
名護市で収集・作成した図面類を中心に、情報の範囲をやんばる各町村に広げる。明治36年小字図、間切集成図、大正期・昭和期の町図などの資料や正保国絵図・元禄国絵図・薩摩藩調製図などの文化財資料についても掲載が検討される。
地方史料
『名護・やんばる地方史料所在目録(増補版)』
研究資料『名護やんばる地方史料所在目録』の増補改訂を目標に、史資料調査を行い、結果をまとめる。
名護市・やんばる地方史料の概要
※「沖縄における地方史料の情報化」より(179‐180)
名護市[583点]: 名護市については、名護市史編さん室で1970年代後半から市内の地方史料の調査確認に取り組んできた。字・家単位で“史料カード”を作成した。以下は、地区別-家別に整理したものである。
[名護地区:2点] 城具志堅家文書[2]
[屋部地区:103点] 安和比嘉正一家文書[26]/安和宮城家文書[1]/安和仲村家文書[1]/安和宮城志賀家文書[5]/安和長山豊隆家文書[1]/安和区文書[1]/中山安里家文書[1]/宇茂佐岸本喜順家文書[1]/屋部久護家文書[14]/屋部ハーヌパタ家文書[13]/屋部岸本光雄家文書[12]/屋部チュンナーヤー文書[6]/屋部岸本すま子家文書[4]/屋部耕作屋文書[4]/屋部ハナナカヤ文書[5]/屋部ギーブヤー文書[3]/屋部渡波屋関係文書[5]/
[羽地地区:290点] 琉球大学附属図書館島袋源七文庫・源河関係文書[1]/源河宮城貞助家文書[20]/源河清水岩夫家文書[29]/源河金城徳清家文書[5]/源河宮城双元家文書[45]/源河松田家文書[9]/琉球大学附属図書館島袋源七文庫・真喜屋関係文書[9]/小川徹氏確認文書(真喜屋・仲尾次関係)[10]/仲尾次喜納家文書[5]/仲尾次宮城良雄家文書[21]/仲尾次松田源栄家文書[2]/沖縄県立図書館比嘉春潮文庫・仲尾次関係[1]/田井等区文書[3]/田井等糸数新治家文書[10]/田井等久場川家文書[2]/仲尾金城家文書[23]/我部祖河区文書[1]/我部祖河仲ノ屋文書[33]/伊差川山里家文書[16]/伊差川座喜味家文書[20]/島尻博物館所蔵文書・羽地間切針竿帳[1]/国立歴史民俗博物館所蔵文書・羽地間切針竿帳[2]/琉球大学附属図書館島袋源七文庫・羽地間切関係[3]/名護市羽地支所所蔵文書[名護市史整理中]/名護市市民課所蔵文書・羽地旧戸籍関係/名護博物館所蔵・宮城真治収集羽地関係文書[12]/名護博物館所蔵・羽地間切村旧小字集成図/ハワイ大学マイクロ史料・羽地関係[2]/京都大学琉球資料・羽地関係[3]
[屋我地地区:43点] 饒平名仲宗根家文書[2]/済井出区文書[1]/運天原小浜家文書[2]/運天原上地完進家文書[8]/運天原花城清典家文書[30]
[久志地区:143点] 久志区文書[36]/久志棚原家文書[5]/辺野古各家文書[86]/嘉陽山口家文書[18]
本部町[444点]: 本部町史の調査・編集過程で収集・翻刻された地方史料は444点にのぼる。そのうち主な史料群は、辺名地仲村家文書(古琉球辞令書)、具志堅仲里家文書(明治前期辞令書)、伊豆味饒平名家文書(土地譲渡証文・借用証文・藍関係文書)、および崎本部金城家文書(シカマ年賦切証文・借用証文・土地譲渡証文)などである。
今帰仁村: 今帰仁村については、今帰仁村歴史文化センターで確認調査を実施した(1997年11月~)。また特記されるのは、各字公民館で作成・収集・伝存してきた“戦後字文書史料”が、今帰仁村歴史文化センターに寄託され、整理・保存されている。
国頭村奥区資料[約800点]: 国頭村奥区について確認調査を実施した。公民館には、戦後の共同店の帳簿資料(177点)を中心に、戦前期の土地関係史料、猪垣台帳、土地台帳、旧戸籍簿、字常会議事録等の、近代・戦後字文書史料がよく整理・保管されている。国頭村の他の字も地方史料の伝存が予想されるが、未調査である。
大宜味村[29点]: 『大宜味村史』(1984年)に地方史料29点が翻刻・収録された。2012年に喜如嘉の山口家文書が発掘されるなど、字文書史料と合わせて今後の調査が期待される。
東村[47点]: 『東村史』には47点の地方史料が収録されている。
伊是名村[41点]: 『伊是名村史』には、銘苅家文書をはじめ地方史料41点が翻刻・収録されている。
名護・やんばるに関する史料紹介
宮城真治資料「宮城真治資料」は、資料の性格から次の4群に大別される。
1)執筆資料群:原稿、草稿、研究ノート(メモ)、調査ノートなどの宮城真治が執筆した資料で、386点、約15,000枚が残る。
2)図書資料群:宮城が研究のために収集したもの(図書)で、沖縄関係83点、それ以外50点の計133点。一部宮城没後の資料が含まれる。
3)戦前新聞切り抜き資料群:新聞10紙(県外1紙)。約660枚。
4)裏文書資料群:整理済み約700枚。大半は昭和10年代の沖縄県予算説明書、諸通知文書、雑文書である。裏の余白を使った文書資料。
青森県津軽藩士の笹森儀助(1845~1915)は、民間の実況を調査し、国力の実際を自らの目で確かめようと探検旅行をしている。1893年には南島探検として沖縄本島・宮古・石垣・西表・与那国の各地を踏査した。
それらの調査成果をまとめたのが『南島探検』であるが、この『笹森儀助雑録』はその探検旅行で各間切から得た調書などの資料を雑纂したものである。青森県弘前市立図書館蔵。
砂糖消費税法改正之儀ニ付請願
明治36年5月、沖縄県民が国に対して行なった「砂糖消費税法改正之儀ニ付請願」の署名簿。
日露戦争後、国は各種増税することで、ふくらむ財政需要に充てていた。砂糖消費税もその一つである。増税は沖縄の砂糖相場にも影響し、下落のしわ寄せは生産者農民にやってきた。砂糖消費税法の改正を求める署名は、沖縄本島全体で20,322名にのぼる(国頭郡4,372名)
国頭郡各間切における署名者数
名護間切 944人
羽地間切 512人
久志間切 192人
国頭間切 16人
大宜味間切 16人
今帰仁間切 804人
本部間切 645人
金武間切 488人
恩納間切 400人
伊江島 355人