明治の大宜味間切                     トップへ


 明治26年6月17日大宜味間切を訪れた笹森儀助は大宜味間切について全般的ことを記してある。現在の大宜味村をしる上でどうしても必要な基本資料である。そのため、ここに大宜味間切部分の全文掲げる(カタカナはひらがなに)


【南嶋探験 T】(笹森儀助:東洋文庫より)
 
 午后三時四十五分、大宜味間切塩屋村大宜味番所に投宿す。
 地頭代(間切の長にして、他府県の町村長に相当するものなれども、其の権力は遥かに之に越えたり。袴・羽織にて、其の状貎の立派なる、一見、一郡の長たるに足ると思はしむ)以下諸史出てヽ、遠路の労を慰す。然り而うして、堂々たる吏員の接遇を受けある余は、羽織なし、袴なし。肌衣に芭蕉布一枚、白の兵児帯、ズボン下に脚絆・草鞋の粧なれば、一同一驚を喫せるものヽ如し。談話の旨趣を通弁家より訳して報せり。此行、言語不通の為め或は失敬に渉る事もあるべし。或いは笑い、或いは誹(そし)ることもあるべし。


・間切の戸口物産及輸出入等
 吏員と対話、地方問答に及ぶ、以下の如し。

 大宜味間切の各村戸数・人口若干あるや。

 十六ヶ村 戸数1164戸、現在人口6733人(男3296人、女3437人)  
  出生215人 死亡 94人

 海陸産物及び輸出入の数は如何。

 農家1164戸
 陸産物 
  甘藷 329万350斤
  米   1689石6斗6升1合
  麦     41石2斗3升5合  粟   21石4斗5升
  黍     1石9斗5升    大豆 16石1斗2升5合 
  小豆    7石9斗5升    豌豆  3石5斗3升3合
  煙草    1660斤      綿    200斤
  牛      248頭       豚    1454頭
  馬      1頭       山羊   2982頭

  但、琉球、沖縄嶋を三地方に分ち三役所を設け、国頭は其の一なり。位置、該嶋の北に居り、
  然して本地は他の二地方と異にして、山岳多き地方なり。故に馬の数、特に少なく、僅か
  一頭に過ぎざるは、山坂峻嶮にしえ之を使用するなきに拠る。以てその地方、形勢を推知
  するを得べし。

 漁家 23戸数
   ヒヨ魚 360斤  ヒキ魚 360斤  グルクン魚 140斤  章魚(タコ) 200斤 クツナケ魚 300斤
 
 製造品
  木綿飛白(モメンカスリ)(紺地1334反 白地287反) 芭蕉布(紺地 561反 白地 249反)

 砂糖(数量と対価は略) 
 
輸出品及代価(数量と対価は略)
 砂糖
 製藍
 米
 薪木
 砂糖樽 
      計金6735(6か)円32銭

輸入品及び代価(数量と対価は略)
 石油 
 白大豆
 昆布
 素麺
 焼酎
 茶
     計880円65銭

 輸出入金差引残金5854円67銭は輸出物品代の残金也。以て該地方富力増進の形勢を察すべし。

・小学生徒は授業料を徴せざるのみんらず反て給費す
   (工事中)

・一間切の負担
    (工事中)

・貯蓄及び負債
    (工事中)

・事務件数役員配当
 問う。番所発着件数如何
  受付件数 1178件
  発送件数 (伺47件 届488件 願157件 合計 692件とす)
 上受付件数1078件を真とすれば、一年365日の日割件数、3件2歩8厘余りなり。またこれを番所
  吏員48人に配当すれば、願・伺・届書1通に15人掛りの振合なり。他府県如何の未開土地と雖
 も如何奇観あらんや。該番所の統計による。

・天候の宜しき人力を助け大也
 該地方総て山間渓谷の間にあるを以て、多くの耕地は梯田糞の如きも用いる事を知らす。耕作の粗なるは、現時の北海道土人にも及ばざる程也。而して僅々一戸に付き、四反歩弱、一人一反充たるざる耕地を以て一カ年の生計を営むは、その天候の温熱なると地力の肥沃なるとは他府県人の夢想たる及ばざる処、その土地の生産力に富める、誰がまた疑いを容れんや。

 是より各間切各村巡廻には、皆な斯くの如き問答筆記あるも、大同小異の者に付き、略して戴せず。唯間切各村の盛衰に関する者は重複を厭はず記載してその事由を識者に糾す。

明治26年6月18日
 午前1時、上問答筆記を終えて、仝行巡査と共に寝に就く。